2022年10月14日

2022年 第 40 週(2022/10/3~2022/10/9)

【今週の注目疾患】
■腸チフス
 2022年第40週に県内医療機関から本年初となる腸チフスが1例報告された。
患者は10歳未満の女性であり、海外流行地への渡航歴があった。
 2006年から2022年第40週までに県内医療機関から報告された腸チフス症例は合計29例であり、概ね年間0~6例ほどの報告が見られている。
報告された29例のうち、性別では男性が17例(59%)で約6割を占めており、年代別では20代が9例(31%)で最も多く、次いで40代が6例(21%)、50代が4例(14%)と続いた。
渡航歴の有無別では海外流行地への渡航歴有りが23例(79%)と約8割を占めており、主にインド、インドネシア、ネパール、フィリピン、ミャンマー等の南~東南アジア地域への渡航者において複数例患者が発生していた。

 世界保健機関(WHO)によると、腸チフスの年間罹患数は世界でおよそ1,100万~2,000万人発生していると推定されており、特にアフリカ、南北アメリカ、東南アジア、西太平洋地域の発展途上国等で公衆衛生上の大きな問題となっている1)。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行開始以来、これまでに国では水際対策強化によって海外由来の感染症(輸入感染症)の発生数が大きく減少してきた2)が、2022年10月11日以降、大幅な水際対策の緩和等に伴い、今後の症例数の増加には注意が必要である。

 腸チフスは腸内細菌科サルモネラ属に属するチフス菌(Salmonella enterica subsp.enterica serovar Typhi)による全身性感染症である。
臨床症状は通常、7~14日間(報告によっては3~60日間)程度の潜伏期間を経て、発熱、頭痛、全身倦怠感、高熱時に胸部や腹部、背中等に数時間発現することがある淡いピンク色の発疹や便秘などの症状を呈する。
下痢症状はあまり見られない。
時に胃腸内出血や腸穿孔、脳症等の重篤な合併症が発生する場合があるが、早期に治療が行われた場合の致命率は通常1%未満である。
チフス菌は宿主特異性があり、感染源はヒトに限定されている。
ごく少量の菌数で感染することがあり、多くの場合、ヒトの糞便や尿で汚染された食物や水が当該疾患を媒介するため、衛生環境の改善が感染リスクの減少につながる。
ワクチンは国内で承認されたものは存在しないため、予防のためには、汚染されている可能性のある食べ物や水に注意し、十分に加熱された飲食物を摂取することや手洗いの励行等が重要となる3)4)5)。

≪引用・参考≫
1)Typhoid:WHO
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2)新型コロナウイルス感染症パンデミック下における感染症の現況:日本感染症学会
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3)腸チフス・パラチフスとは:国立感染症研究所
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4)お役立ち情報 腸チフス、パラチフス:FORTH
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5)Yellow Book_Chapter4_Typhoid&Paraphoid Fever:CDC
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【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年10月12日更新)